ロックの日の出会い

僕は20代前半から関西でバンド活動を精力的に行っていました。そのバンドが解散してしまった事がきっかけで思い切って上京しようと決心しました。

東京に上京したころは、頼れる人など居なくて寂しい毎日でそれを紛らわすためにライブハウスに通い詰めて現実逃避していました。

その当時、よく見に行っていたバンドのドラマーが抜けるという事を知り是が非でも加入したくオーディションを受けました。

そのバンドは東京のインディーバンド界隈では当時特に勢いをつけており人気がありました。
幸運なことにオーディションにも無事合格できてサポート期間を経て無事加入することが出来ました。

そこから、自分の人生は大きく変わっていきました。
全国、津々浦々ライブ三昧、CDリリースなど日々を音楽一色に塗り替えることができ、とてもやりがいを感じていました。

しかし、恋愛面では全く出会いは無く寂しさを抱えていました。
唯一、出会いの場があるとすればライブハウスでした。
だけど、ライブハウスに通っている女性に当時は多少偏見があり恋愛しようとは思っていませんでした。

フロアで酔いつぶれている女性だったり、バンドの行き過ぎた追っかけでバンドに迷惑をかける、またはファンに手を出そうものならSNSに書き込まれてしまうなど、良い印象が無かった為です。

6/9のロックの日、彼女と出会ってからそんな偏見なんて一気に壊れてしまいました。

ライブ後にフロアで飲んでいると、彼女がいきなり話かけてきました。
「ライブのスケジュール全部教えてください。全部行きます」
僕は、あまりにいきなりだった事と、いきなり距離が近いと思い警戒していました。

しかし、見に来てくれるのはありがたいし何本か見に来てくれれば嬉しいなくらいに思い、今決まっているスケジュールをその場で全部教えました。
彼女は、手帳にそのスケジュールを書き込み「ありがとう」と言って去って行きました。

その当時は月に10~15本はライブ活動を行っており、その中にはもちろん地方のライブも多く含まれていました。

出会ってから東京のライブが3本ありました。
その3本とも彼女は来てくれました。その後に名古屋でのライブがあり、さすがに居ないだろうと思っていましたがライブが始まってフロアを見てみると彼女の姿があり、思わず嬉しくなりました。

名古屋でのライブ後に、どうしてそこまで時間をかけて見に来てくれるのか尋ねてみると、
「私は本当に好きなものの為なら、どこへでも行くよ」
と答えてくれました。

はっきり言って僕なんかより、ずっとロックだと思ったし、この子の生きる力はすごいと感じました。
人間どんなに好きだと言っても何処かで理由つけて、言い訳して曲がっていくものだと思っていたからです。

この頃から、元々タイプの顔ではありましたが彼女にどんどん惹かれていったのを覚えています。

結局、彼女は出会った日に言ったように全部ライブに来てくれました。仕事がある中、合間を縫って来てくれる献身的な姿に僕はもうすっかり彼女に惚れ込んでいました。

そして、告白しようと決心しました。
バンドマンがファンに手を出すのは、あまり良くないと分かっていましたが抑えきれませんでした。

しかし、答えはNOでした。
理由は、そのバンドメンバーと付き合ったことが知れると少なからずバンドに影響が出るからという事でした。

僕は、何て自分はちっぽけなんだと思いました。
彼女は自分のことだけでは無く他人の事も考えているのに、僕は自分の事ばかり考えていたと実感しました。

だけど、どうしても諦めることはできませんでした。
もし仮に影響が出たとしても、乗り越えられるという根拠のない自信があった為です。

それから、僕も普段何もない日はライブをフラフラ見に行くことが多いので、彼女を誘ってたくさんのライブを見に行き、色々な事を共有しました。
今思えば、僕が彼女のファンになっていたと思います。

人生でこんなにも好きになった人は居なかったし、こんなにも大胆になった事も初めてでした。
それだけ僕の中で彼女を必要としていたのだと思います。

そして、2回目の告白。
いつもの様にライブを見た後に帰りの電車のホームで伝えました。
「もし周りの事を考えてくれて、付き合うことを考えていないなら今度は2人で考えよう。もし何か影響があったとしても2人で乗り越えていこう」

彼女は黙ったまま、うんと頷いて
「これからもよろしくね」
と言ってくれました。これほど嬉しかった事は今までで一度もありません。

それから、何度もお互い幸せを共有しました。